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  • 岸田知子先生連載の本ページは、『漢語百題』として、2015年3月大修館書店から刊行されました。
  • 【訃報・岸田知子先生】
    中央大学文学部哲学専攻の岸田知子教授は、かねて療養中でしたが、2015年3月12日(木)に亡くなられました。
    先生のご学恩とあたたかいお人柄をしのび、衷心よりお悔やみ申し上げ、ご冥福をお祈りいたします。

                                               (中央大学大学院文学研究科哲学専攻 ・ 中央大学文学部哲学専攻 一 同)

PART 1(漢語百題1~100)
PART 2
(101) 百 (ひゃく・もも) (102) 快刀乱麻(かいとうらんま) (103) 沖(おき)

(105) 仮借(かしゃ) (106) 非(ひ/あらず) (107) 蹉跎(さた)

(109) 帛・棉・綿(はく・めん・めん) (110) 経(けい・きょう) (111) 郊(こう)

(113) 師・士(し・し) (114) 漢(かん) (115) 杜(と)

(117) 豆(とう・ず/たかつき・まめ) (118) 机下(きか) (119) 夢 (む・ぼう/ゆめ)
 


 「百」には数の名としての100、すなわち1から数えて100番目の数の意味とは別に、多くのものやさまざまなものを表す意味がある。百貨店といえば、100の数だけの、あるいは100品目の商品を売る店ではなく、多くのさまざまな商品を売る店のことである。
 「漢語百題」を100で終えて、あらたにタイトルを変えて再スタートしようと思っていたが、この百題の百は百貨店の百、百科事典の百であると考え直し(たいへんおこがましいが)、ナンバリングを増やしていくことにした。どこまで続くか、百にこだわらずにおつきあいいただきたい。

 数の多いことを表す和語に「もも」がある。これに百という漢字が当てられたから、「百~」と書いて「もも~」と読む言葉がたくさんある。『広辞苑』では「百色染(ももいろぞめ)」「百枝(ももえ)」「百重(ももえ)」「百重波(ももえなみ)」「百重山(ももえやま)」「百日(ももか)」「百篝(ももかがり)」「百絡み(ももがらみ)」「百木(ももき)」「百草・百種(ももくさ)」「百隈(ももくま)」「百囀り(ももさえずり)」「百石船(ももさかふね)」「百敷(ももしき)」「百度(ももたび)」「百千(ももち)」「百千度(ももちたび)」「百千鳥(ももちどり)」「百づ島(ももづしま)」「百綴り(ももつづり)」「百手(ももて)」「百歳(ももとせ)」「百鳥(ももとり)」「百取の机(ももとりのつくえ)」「百官(もものつかさ)」「百羽掻き(ももはがき)」「百船(ももふね)」「百矢(ももや)」「百八十神(ももやそがみ)」「百代・百世(ももよ)」「百夜(ももよ)」が並んでいる。

 百と書いて「もも」と読むことを現代人に思い出させたのは山口百恵さんだろう。かつての山口百恵ブームの遠因の一つには、百恵という名のインパクトもあったのではないかと思う。多くの恵みがあるようにという命名の意図が、どこやら寂しげな彼女の表情に重なって、人を魅了する一因となったのではないだろうか。

 日本には「百百」あるいは「百々」と書く姓や地名がある。姓としては「とど」と読み、地名としては京都上京区では「とど」、美作や信濃上伊那では「どうどう」、三河や加賀などでは「どうど」と読むと『大漢和辞典』にある。「百目木」という姓や地名もあり、「百目鬼」と書くこともある。「どめき」または「どうめき」と読む。百は「ももたび(百度)」でもあることから、「度」の音読みの「ど」で読まれるようになったのではないかと推測している。

 漢語にも、数の多い、さまざまな、という意味の百のついた語はたくさんあって、四字熟語も多い。例をあげると、「諸子百家」「百家争鳴」「百花斉放」「百花繚乱」「百折不撓」「百薬之長」「百鬼夜行」「百戦錬磨」「百世之師」など。熟語数はおそらく「千」よりも多いだろう。物がたくさんあるといっても、なかなか千まではいかないものである。

 一方、百をそのまま100の意味に取ることばもある。「百歳之後」とは人の死を婉曲にいう言葉。人の寿命は長くて百歳だからというわけである。これに似た「千秋万歳之後」は皇帝の死後をいう(当コラム33「秋」参照)。皇帝だからこそ、そこまでは生きておられることはないという千年万年を持ち出すが、一般人は百歳ぐらいでいいだろうという手近感が見える。もっとも、今の日本では百歳を超えた人が47756人(2011年)おられるというから、「百歳の後」をうっかり使うと失礼に当たることもあるだろう(使う人もあるまいが)。(2011/12/21)