中央大学 中央大学Webサイト

CBSスペシャル座談会

福島の未来へのメッセージ

学員時報オンライントップ > ピックアップコンテンツ > CBSスペシャル座談会

2018年(平成30年)3月5日




 今年度で10周年を迎えた中央大学ビジネススクール(CBS)では、次の10年を見据えたビジョン「中央大学ビジネススクールNExT 10」を始動しています。このビジョンでは、不確実性の時代を拓いていく“チェンジリーダー”になり得る人材の育成を目指しています。
 今回、まさにその人材であるとともに、震災後の福島の復興にゆかりのある学員3人を招き、「福島の未来へのメッセージ」をキーワードに思いを語っていただく“スペシャル”な座談会を実施しました。
 後半には中大航空部の学生5人も加わり、先輩でありエアレースのワールドチャンピオンである室屋氏と交流を図りました。


◆高橋 雅行 氏(昭52法)
福島民報社代表取締役社長、福島白門会支部支部長
◆室屋 義秀 氏(平8文)
エアレーサー、2017年レッドブル・エアレース・ワールドチャンピオンシップ チャンピオン
◆岡崎 慎二 氏(CBS3期生)
株式会社銀嶺食品代表取締役

◆杉浦 宣彦 中央大学戦略経営研究科(CBS)教授
ファシリテーター

(以下、敬称略)

それぞれの福島

杉浦 今回は中大と福島に縁がある方々に集まっていただきました。福島とのかかわりを教えてください。

高橋 私は生まれも育ちも福島です。中大卒業後は、福島に戻ることありきで進路を考え、いまの福島民報社に入りました。もともと、新聞記者になるのが夢だったのです。


福島民報社・高橋社長
(福島白門会支部支部長)


杉浦 福島で生まれ育ったのは高橋社長だけなんですよね。“福島歴”では、次に長いのは室屋さんですか。

室屋 はい。私は中大杉並高等学校から中大に進みましたが、勉強せずに航空部の活動に全精力を注いでいました(笑)。卒業後はしばらく関東にいましたが、1998年(平成10年)にふくしまスカイパーク(福島市)ができたことをきっかけに、そこをベースに活動を広げてきました。

杉浦 岡崎社長はCBSで私のゼミ生でした。福島歴は7年ですよね。

岡崎 生まれは長野県長野市ですが、いまは珍しいですが父が俗にいう転勤族だったので、幼少期は全国各地で育ちました。学部は他大学の経営学部を卒業し、就職のために上京したのが2003年(平成15年)です。2010年(平成22年)にCBSに入り、在学中に東日本大震災が起きました。ご縁が重なり、福島で学校給食を中心にパン・菓子を製造する銀嶺食品という会社の社長にいきなり就任することになったのです。震災の影響で経営が厳しくなっているうえ、福島で右も左もわからないなか、杉浦先生に相談したり、高橋社長にもいろいろと助けていただき、ここまでやってきました。

福島は次のステージへ

杉浦 私も祖父母が福島県郡山市出身ですし、「ふくしま市食品加工産業創出研究会」の座長を含め、福島関連の仕事も多く、月3回は福島に行く“福島漬け”の生活です。法学部で持っているゼミの合宿も隔年で福島で行い、今年もその予定です。さて皆さんは、福島の現状をどうご覧になっていますか?


エアレースワールドチャンピオン 室屋氏

室屋 初期の復興はある程度終わり、未来をつくるステージに入ったと感じています。でもやっぱり、震災と原発の影響がありますから、他県とは違うやり方でないといけません。キモになる、熱い火の玉みたいなちょっとびっくりするものが必要ではないでしょうか。私は航空関係しか能力がありませんから、その分野で子どもたちに貢献していきたいですね。具体的には、展示場や教室を開催することで子どもたちが航空に興味を持つきっかけをつくったり、ふくしまスカイパーク内に小型機の製造拠点を設けて就職先を用意したり。少しずつ芽が見え始めているところです。

高橋 室屋さんが拠点にしているスカイパークは、かつての農道空港です。採算が取れず、その役目を終えようとしているときに、室屋さんが息を吹き返してくれました。人は動いていると新しいものを生み出だすし、新しいものを生み出した人には新しい輪が加わってくるものです。スカイパークは単なる練習場ではなく、これからの新しい産業をリードする新たな拠点になりつつありますね。


銀嶺食品・岡崎社長

岡崎 私も、復興という意味ではある程度終わったという印象を持っています。いまはもう前を向くしかないし、現状起きていることを解決していこうと動いているところではないでしょうか。震災後、福島にはたくさんの人と資本が投下されました。食品加工業でも、最新の設備をたくさん投資いただいた。そこに乗るかたちで、“福島モデル”をシステム化して確立し、世界に向けて発信する展開になったらおもしろいですよね。私が取り組んでいる六次産業化(一次産業が食品加工・流通販売にも業務展開する新しい産業)は、そういう観点から、食と工業を結び付け、新しい流通の仕組みや企画をつくっています。

高橋 福島は広いですから、震災や原発事故の影響を直接受けた地域と、それ以外の地域を同じに語るのはちょっと難しいのです。それに震災前から少子高齢化や市への人口集中など、他県と同じような問題を抱えていました。震災による環境から脱しようとしているだけでは、元気になれません。地方に必要なのは、地域に合った産業を元気にするということに尽きると思います。それは人間としての生きがいであり、生活の糧です。これを育てていかないと、理想を語っても、誰も住んでくれませんよね。とりわけ一次産業がない国には、人口増もないし、国の発展もありません。ですが、地域のつながりがなければ一次産業はできません。もっと一次産業を大事にすれば、地域の隅々まで人が住み、またほかの産業を生んでくれると思います。

岡崎 日本で一次産業をつくるというのはすごく難しい。あまりにも大切にされてこなかった歴史があるんです。都内では国産のものが高いという印象がありますが、地方では逆に価値がつかないということが起きています。このミスマッチは何なんだろう、と。そういったところを変えていかなければいけませんよね。

福島の“正常化”を世界に発信

杉浦 実は福島は、仙台と東京、両方の都市をビジネスの相手として見ることができる珍しい場所です。大宮からだと、新幹線で1時間。寝ていられないくらい近いです(笑)。


ファシリテーターを務めた杉浦教授

高橋 社会インフラ、交通網でいったら間違いなく日本一なんですよ。新幹線も高速道路も通っている。ここをもっとアピールしてかなければなりません。そのための工夫と努力はしなければいけません。控えめな県民性ですが、プライドを持って積極的に魅力を内外にアピールしなければいけないと思う。

岡崎 おっしゃるとおり、立地的な優位性から、福島はとても可能性があります。一次、二次、三次産業が30分圏内にぎゅっとまとまっているのは珍しい。日銀のすぐ近くに畑があるという風景は、ほかにはなかなかありませんよ。産業が生まれるべくして生まれる立地環境であると思っています。

杉浦 福島は「白河の関を越えたら」どこか違うところ、なんて発想はもう捨てて、大消費地への供給地であっていいわけですよね。また福島のなかでも、地域によっては“復興モード慣れ”しているところがある。ですから、私はまず福島の“正常化”をしなければならないのではないかと考えています。もう普通の状態に戻ってきたのだから、もっと普通にやっていこうよ、ということです。室屋さんは海外のインタビューでもよく福島を話題に出しておられますが、周囲の反応はいかがですか?

室屋 震災直後は「フクシマ」と言うだけで、「うわっ、大丈夫?」なんて聞かれましたが、いまは何も反応がありませんから、福島が“正常化”されつつあるという証しかもしれません。

杉浦 エアレースはとてもお金のかかるスポーツですよね。室屋さんも安定したスポンサーを見つけられるまで大変ご苦労されたと聞いています。でも、福島を拠点にしているチームが世界大会で優勝することで、そこに大きな経済力が存在していると世界に示せたのではないでしょうか。これを正常化と呼ばずして、なんと呼ぶのかと思いますよ。それに、室屋さんのご発言からは“福島愛”が感じられます。

室屋 海外のエアレーサーには、実家が飛行場だとか、恵まれた環境の方も多くいます。私はゼロからスタートしなければならないなかで、福島の方にたくさん助けていただきました。思い返せば返すほど、感謝しかありません。得たものの成果が大きいということは、それ以上のものをもらっているということ。きちんと返さないと、罰が当たります。だから地元に貢献するといった感覚ともちょっと違いますね。でも高橋社長みたいな方は「返します」と言っても「いらない!」とおっしゃる(笑)。だから、その分は次世代に渡していこうかな、と。


福島愛・中大愛にあふれた穏やかな座談会

高橋 室屋さんは世界へのメッセンジャーですね。地球儀で見たら点でしかない福島の“正常”が、世界に伝わり続ける。これはやろうと思ってもなかなかできないですよ。室屋さんが所属しているふくしま飛行協会は地域おこしも熱心にやっていますし、地元の産品を大事にしようとしている。そこに岡崎社長の銀嶺食品も絡んだら、いいふくらみが出るのではないでしょうか。杉浦教授というすばらしいバックボーンもいらっしゃいますから、新たな連携プレーに期待しています。

岡崎 実業とアカデミックのつながりは理想形ですよね。産業界として、産学連携というかたちでやっていければと思っています。

高橋 それに白門の愛着だけで、これだけのつながりができるということを、この年になっても感じています。岡崎社長も室屋さんも、福島のシンボルであり、白門のシンボルです。

空の限界点で戦うということ


後半は、銀嶺食品の人気商品
「林檎パウンドケーキ」をいただきながら

杉浦 ここからは、航空部の学生も交えてエアレースのお話を聞いてみたいと思います。「2018年レッドブル・エアレース・ワールドチャンピオンシップ」シーズン開幕戦の決勝レースがアブダビで2月3日(現地時間)に開催され、室屋さんは2位でしたね。

室屋 結果は2位でしたが、ほぼ完璧なレースでした。でも実は飛行機が完成せず、クリスマスもお正月もなくぶっ続けで作業していました。どこまでチャレンジすべきか、というところですね。テレビ中継だと楽勝に見えるかもしれませんが、世界レベルのものに“楽勝”はありません。

杉浦 エアレースにはオーバーG(飛行時の重力加速度が0.6秒以上10G<上限12G>を記録すること。その瞬間に失格になる)というものもありますよね。

室屋 我々は、もっともオーバーGをしてきたチームです。気合いと根性で、練習ではギリギリまでいくのですが、本番ではちょっと力が入ってしまう。それを克服するために、操縦桿の動かし方や、筋肉の反応速度の計算など、さまざまなトライアンドエラーを繰り返しました。

杉浦 勝つための戦略やイメージトレーニングも重要ですよね。

室屋 イメージがないと絶対にうまくいきません。飛んでいるときは、その場で考えてから行動する時間はありませんから。正確に計算して、それをイメージしておく。角度を正確に合わせ、次の瞬間の目線はここ、次にG(重力)がかかってくるから酸素を補給して、体に力を入れて、操縦桿は2ミリ戻して……そんなイメージです。そして、イメージしたものとのズレを探すわけです。間違い探しをやっている感じですね。いかに正確に、調整しながら、考えていたとおり<戦略どおり=イメージどおり>に飛んでいけるか、それまでの練習を含めた積み重ねが重要です。


学生からの質問に、気さくに答える室屋氏

学生 Gがかかっているとき、意識はどうなっているのですか?

室屋 意識はあるけれど、酸素量が減っているから、判断能力が落ちています。10Gだと、もうハンマーでぶっ叩かれたぐらいの衝撃。その瞬間、筋肉をどう動かすか、そして酸素がなくなってくるので、どこで息継ぎをするのか。機内も50~60℃と暑いので、水分もなくなっていく。脱水対策も含めて、限界点で戦っています。

岡崎 すごい世界です。Gに耐えるのは、訓練でどうにかなるものなんですか?

室屋 訓練で慣れてくるということもありますが、物理的な我慢は難しいですね。事前に準備をしておかないと、耐えられない領域です。そういう状態だから、結構ミスとかが出るんですよね。それが0.1秒の差になって、負けてしまう。

高橋 エアレースは1000分の1秒を争う世界なんですよね。

室屋 はい。1000分の1秒は、たった10センチです。

杉浦 室屋さんのようにエアレーサーでグライダー出身というのは、珍しいのでは?

室屋 そうですね。グライダーは上昇気流を拾いながら、空気や雲、地上の熱、風とか、いろいろなものを計算し、それらをいかに効率よく使っていくかというスポーツです。空を見ながら、雲のでき始めを探していきます。その下には上昇気流があるので、イチかバチかでそこに突っ込んでいく。自然のことをよく勉強していないとできませんし、体力と度胸も必要です。私もやりたいのですが、エアレースと同時にはできないので、老後の楽しみに取っておきます(笑)。

 座談会後、高橋社長の提案で「室屋選手に挑戦! 紙飛行機大会」が“緊急開催”され、座談会メンバー、航空部の学生を交え、お手製の紙飛行機を誰が一番遠くまで飛ばせるかを競い合いました。優勝した学生には、室屋氏からサインのプレゼントが。学生にとって、憧れのワールドチャンピオンと直接話し、交流する最高の機会となりました。


全員で紙飛行機を折り、真剣勝負! 誰が一番飛んだでしょうか?

▲TOP